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新潟地方裁判所村上支部 昭和48年(わ)1号 判決 1978年4月20日

主文

被告人両名をそれぞれ懲役六月に処する。

但し、この裁判確定の日から被告人両名に対し三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、昭和四七年一二月一〇日施行の衆議院議員選挙に際し、新潟県第二区から立候補した渡辺紘三の選挙運動者であるが、共謀のうえ、同候補に当選を得しめる目的をもつて、同年一一月二五日夜(午後八時五〇分頃から)、新潟県岩船郡荒川町大字藤沢三〇四番地二割烹旅館高勇会館において、別紙記載の同選挙区の選挙人である山口仁宏外四九名に対し、同候補のため投票並びに投票とりまとめの選挙運動を依頼し、その報酬として、少くとも一人当り約金一、〇〇〇円相当の酒食の饗応をしたものである。

(証拠の標目)

一  押収してある料理飲食等消費税領収証一冊(昭和五二年押第五号符号一)

一  司法警察員作成の「高橋日出男の住居ならびに高勇会館の所在地の調査について」と題する書面

一  検察官事務取扱副検事作成の捜査関係事項照会書および関川村選挙管理委員会委員長作成の「選挙権の有無について(回答)」と題する書面

一  司法警察員作成の捜査関係事項照会書(回答部分を含む)四通

一  第二回公判調書中の証人金子兵太郎の供述部分

一  金子兵太郎の検察官に対する供述調書

一  第三回公判調書中の証人渡辺博の供述部分

一  渡辺博の検察官に対する供述調書

一  第四回公判調書中の証人遠山恒夫の供述部分

一  遠山恒夫の検察官に対する供述調書

一  第一二回公判調書中の証人遠山三夫郎の供述部分

一  遠山三夫郎の検察官に対する供述調書

一  第一一回公判調書中の証人渡辺久の供述部分

一  渡辺久の検察官に対する供述調書

一  証人須貝俊郎の当公判廷における供述

一  須貝俊郎の検察官に対する各供述調書

一  証人渡辺和司夫の当公判廷における供述

一  証人須貝哲三郎の当公判廷における供述

一  須貝哲三郎の検察官に対する供述調書

一  第一四回公判調書中の証人井上忠雄の供述部分

一  井上忠雄の検察官に対する供述調書

一  第一四回公判調書中の証人富樫幸吉の供述部分

一  富樫幸吉の検察官に対する供述調書

一  第一四回公判調書中の証人渡辺志郎の供述部分

一  渡辺志郎の検察官に対する供述調書

一  第六回公判調書中の証人伊藤カツの供述部分

一  伊藤カツの検察官に対する供述調書

一  第六回公判調書中の証人伊藤イトの供述部分

一  佐藤イトの検察官に対する供述調書

一  第七回公判調書中の証人高橋満智子の供述部分

一  高橋満智子の検察官に対する供述調書

一  長谷川勝夫、寺社岩美、馬場俊、石山政十司、田中勝吾、南波愛一、磯部洋平、小池忠吾、時田穣、金子兵次郎、川口省平、山本豊太郎、小田正平、竹内武夫および松本新吉の検察官に対する各供述調書

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人高橋日出男の検察官に対する各供述調書

(供述調書に対する弁護人らの主張について)

被告人高橋の弁護人は、前記各証人の検察官に対する本件各供述調書並びに被告人両名の検察官および司法警察員に対する本件各供述調書については、その各供述に任意性も信用性もなく、その任意性、信用性についての立証がなされていない旨主張し、被告人長谷川の弁護人は、前記各証人の検察官に対する本件各供述調書については、その各供述に前の供述を信用すべき特別の情況(以下「特信性」という)はなく、また被告人両名の検察官および司法警察員に対する本件各供述調書については、任意性がない旨主張する。

しかし供述調書について、任意性、特信性が問題となつた場合においても、改めてその任意性、特信性の存否につき証拠調をしなければならないものではなく、その供述者の公判廷における供述その他既に取り調べ済みの関係証拠に照らし、また当該供述調書の内容に徴し、当該供述調書の任意性、特信性に疑いがなければこれを証拠として採用することに支障のないことはいうまでもない。

本件においては、前記各証人は公判廷において主要な事項について記憶の曖昧な供述や否定的供述をしているが、その供述は本件事件後二年ないし四年を経過して記憶の遠のいたものもあり、また右各証人は被告人らと顔見知りのため被告人らの面前では、被告人を慮つていることが窺われる。しかし右証人らが検察官に供述したのは、本件事件の直後であつて記憶のより鮮明な時であり、各証人の当公判廷における供述および公判調書中の供述部分に徴すると、検察官に対し、それぞれ任意に供述し、その調書を読み聞かせて貰つたうえ、間違いないものとして署名し指印を押捺したことが認められる。

また、被告人両名の検察官に対する各供述は、被告人両名の当公判廷における供述内容、当該供述調書の内容に徴すると、その任意性、特信性はこれを認めるに足りるものであり、その取り調べ方法が違法、不当であつたとは到底認められない。

(饗応飲食物の価額について)

前掲各証拠、殊に被告人高橋の検察官に対する昭和四七年一二月二七日付および昭和四八年一月三一日付供述調書に徴すると、当日提供された料理の価額は、少くとも一人前金一、〇〇〇円であることが認められ、このほか高橋満智子の検察官に対する供述調書によれば、日本酒が銚子で約三〇〇本提供されていることが認められる。そして被告人高橋の検察官に対する昭和四七年一二月一八日付供述調書によれば、当日の出席者は予定した七〇人に満たない五七人ないし五八人であつたことが認められるから、一人平均少くとも銚子五本の提供がなされたもので、第七回公判調書中の証人高橋満智子の供述部分によると、当時銚子一本金一〇〇円であつたものであるから、以上を合計すると、当日の酒、料理の価額は少くとも、一人当り平均金一、五〇〇円(室料やサービス料等は加算していない)となる。右金額から徴収した会費金五〇〇円を控除すれば、一人当り平均金一、〇〇〇円となる。

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為は、いずれも包括して公職選挙法二二一条一項一号、刑法六〇条に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で、被告人両名をいずれも懲役六月に処し、情状により、被告人両名に対し、いずれも刑法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間各右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、被告人両名に連帯して負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

別紙

<省略>

<省略>

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